貯まる十周年

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「たまる、たまらない、たまる、たまらない」
「プレゼントした花むしるなよ!」
「私たちお金がたまったら結婚しようねっていってもう10年だよ」
「そんな経つか」
「たまる、たまらない。あーあ、たまらない。だから…」

「あーあ、たまんねぇな。やっとゆっくり出来ると思ったら」
「結婚して2人で休みなく働いて…一人息子も結婚して」
「金は貯まらなかったけどな。老後は行けなかった新婚旅行を兼ねて旅行でもと考えてたのに、余命1ヶ月もないとはあの医者ハッキリ言いやがる」
「貯めておいて良かった」
「へそくりか?」
「あなたとの余生貯金。十年もある」

入院中の父が母と一緒に病院から消えた。「元気にしてるよ」と旅先から画像とメールだけがポツポツ届く。十年後余生通帳が2冊届いた。
「父さんも貯めてたんだ」
父が倒れる少し前、母が倒れてもう長くないと言われたのにけろっと次の日に元気になってたのは。あれは。
公開:21/12/28 12:54
十周年祭り 田丸先生十周年祝い

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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