福音の黙殺

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「出来たぞ!」F医師は叫んだ。ついに、特殊なペンの発明に成功したのだ。

患者の常ではあるが、自分の病状を的確に表現することは難しい。医者に“どうしましたか?”などと聞かれても、聞きたいのはこっちの方だと、イラつきつつ、もごもごと断片的に不調を訴えることになる。

F医師が発明したペンを使うと、患者の脳と連動し、いつから、どのような不調を来していたのか、また、精神的な問題の要因の予測についても、克明に記述できるのだ。しかも、まだ数は少ないが、多言語対応になっている。

この発明は、この国の医学界のみならず、世界に福音をもたらすものと信じられた。しかし、国家権力が、これを疎んじて、ペンの発明にかかわる資料の没収とともに、F医師を収監した。F医師の住む国では、国民の健康の正しい把握と治療よりも、大事にしているものがある。

この措置に声を上げた医師たちもいたが、すべて黙殺されたという。
その他
公開:21/12/28 10:00
更新:21/12/31 11:27

kidohe

「蝋燭」が人生初作品、初投稿です。
よろしくお願いします。

普段は、韓国(アジア)ドラマ・映画の字幕監修者として働いています。

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