伝心柱

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俺の実家は伝統的な和風の日本家屋で、床の間に大黒柱がある。
大黒柱は、土間と床との境の中央に立てる特に太い柱で、家屋の中心に最初に立てる柱だ。
実家の大黒柱には不思議な力があって、七福神のひとり大黒天が柱に宿っているためだと一家相伝されている。その力とは、大黒柱の周辺にいる家族同士と、心の内に思っていることを声に出さなくても互いに理解しあえるというものだ。
だから、実家の大黒柱は、別名「以心伝心柱」、略して「伝心柱」と呼ばれ、先祖代々崇め奉られている。伝心柱について話している声を近所の人が聞いて、なぜ電信柱の話をしているのだろうと訝しがられたものだ。
俺が幼かったころ、いたずらなどをして黙っていると、様子がおかしいと思った親が伝心柱の前に俺を座らせ、無言のまま白状させられたものだ。
今も大人になって実家に帰省すると、隠し事がなくても伝心柱にすべて見透かされているようで否応なくそわそわする。
その他
公開:21/12/30 07:02
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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