0
2

にぎわう祭りの丑の方角に、ひっそりと木造の建物がある。あちこちに御札が貼られている曰く付きの建物だ。

そこに青い法被を着て、たすき掛けをし、ハチマキを締め、真剣な面持ちで、ある少年は扉を見つめ、開ける。

すると、建物の中の影が蠢きだし、凶暴な牛の姿となり襲いかかる。

少年は落ち着いた様子で影をすり抜けていく。その先には大きな太鼓が1台奉られていた。

側にあるバチを手に取り、少年はその太鼓を叩いた。太鼓の音は祭中に響き渡った。

その音を聞いた人々は、食べ物を食い散らかしていた様に気づかず、笑い騒いでいた行いを冷静に見つめた。

労るように食べ物を扱いだし、手のひら同士を合わせて目を閉じる。感謝と詫びの念を込めて。

太鼓音は牛の怒りの声。嘆きの声。
収まりきらない感情の音。

少年は真剣な表情を変えず、静かに太鼓を叩く。影の牛が落ち着くまで、一音、一音、大切に叩いていった。
その他
公開:21/12/29 22:45
更新:21/12/30 21:15

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容