佳き日に

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「牛乳がないぞ。今すぐ買ってこい!」
薄暗い早朝、男の怒声が響く。買いに行く以外、選択肢はない。すぐに行かなければ、また殴られるかもしれない。そうでなくても、罵詈雑言を浴びせられるのは決まっている。

別れるために、DVの記録をしようと思うのだが、いつも間が悪く、確たる証拠を残せないまま、もう20年もそうして生きている。

そんなある日、夢を見た。夢というより、DVの再現だった。陰鬱な目覚めの気分を振り払おうと、久々に買った新色の口紅をSNSにアップすることにした。写真のファイルを開けると、覚えのない動画があった。再生すると、夢に見た“再現映像”が、当時の日付入りで保存されていた。

喜びに震えた。その映像を持ってそのまま警察に行こうとした。しかしー。今、男は仕事も順調で、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。行くなら、あの男が最も弱っている時を選ぶべきなのではないか。女は携帯を閉じ、再び日常に戻った。
その他
公開:21/12/26 23:58
更新:21/12/31 11:35

kidohe

「蝋燭」が人生初作品、初投稿です。
よろしくお願いします。

普段は、韓国(アジア)ドラマ・映画の字幕監修者として働いています。

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