きこえる

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山猫軒。その店は西洋料理店でありながら料理のにおいが全くしてこない。
調理の音がしてこなければ、客を始めとした人の気配もない。これで開店中と言うのだから驚きだ。
店内に入ると外の音が遮断される。聞こえるは自身の心臓の音と呼吸音。恐る恐る次の扉へと手をかける。
一度奥に進むと前の部屋へは戻れない。奥に進むと何者かの気配と共に息遣いが聞こえてくる。
良かった…人がいたんだ。安心し、扉を開く。私は暗闇に浮かぶ数多の眼差しに見つめられていた。
猫の興奮した声。ガリガリと何かをかじる音。何より鼻を突く酷い血のニオイ。
荒くなる呼吸。私は手を伸ばし、指先に触れる毛触りを堪能する。
気持ちがいい…そうだ。私は食ではなく、この手触りを味わいに来たのだ。
私は猫に奉仕する者。どうか私を雇って下さい!

その日から私は山猫軒の店前に立つ。
猫が「人を食べたい」というのなら私はそれに応え、店に人を引き入れよう…
公開:21/12/26 21:12

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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