きこえる

出産を機に夫の生家である田舎へと引っ越しを決めた。
自然に囲まれた土地でのんびり暮らしていこうと思っていたのだが…一つ問題が発生した。
私達の住む古民家に家鳴りと呼ばれる妖怪が住み着いている事だ。
悪戯好きなこの妖怪は家を揺らし、ギシギシと音を鳴らす。直接的な害はないが赤ちゃんに何かあったらどうしよう…と不安になる。
だが、それは杞憂に終わった。家鳴りは家に住人が戻ってきた事が嬉しかったようだ。それ故に初日は大はしゃぎ。翌日からは鳴りを少し治めてくれた。
それに赤ちゃんの面倒もよく見てくれる。ゆりかごをゆっくり揺らしてくれる。カラカラと音の鳴るオモチャであやしてくれる。
家鳴りは私に対しても優しくしてくれる。海育ちの私は野山の広がるこの地でふと寂しさを感じてしまう。
そんな時、家鳴りはざるに入れた小豆を揺らして波の音を再現してくれる。
聞こえてくる優しい音に私もこの家が大好きになった。