わたしの部屋のトイレの男

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 トイレの灯りがついていて、消したら「オイッ!」と中から男の声がした。思わず「あ、ごめんなさい」と言って灯りを点けてから、アッ!っと思った。わたしは一人暮らしだった。
 カタカタと便座の音。チャラチャラとベルトの音。ああ、もう出て来る。わたしは食卓の椅子を抱えて覚悟を決めた。
 ガチャ
と、乱暴に扉が開く音。でも、扉は微動だにしていない……
 少しのあいだ、椅子の足を扉にむけてじっとしていたのだけど、誰かがいる気配はない。トイレの灯りは、ついたままだ。
 意を決して、扉のノブに手を掛けてひねる。
 カッチャ
そっと扉を開いてみると、中ではフタのしまった便器が静かだ。誰もいない。
 ただ、ものすごく臭い。臭いけど嗅ぎ覚えのある臭いだ。
 わたしはすかさず実家の母に電話をした。
「もしもし。わたしよわたし」
「はい? うちには『わたし』なんて娘はいませんよ」ピロリン
 うん。母はダイジョブだ。
ホラー
公開:21/12/26 08:12
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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