憧憬

小さな山と谷がどこまでも重なって、何本もの川がそれを縫い合わせている。　狭い盆地から小山を自転車で駆け上がったそこが、お気に入りの景色だった。

この土地の名は全てアイヌが付けたもの。　漢字に意味はなくアイヌ語の発音に音を当てているだけだ。
札幌（サッポロペッ、乾いた大きい川）、小樽（オタオルナイ、砂浜の中の川）、富良野（フラーヌイ、臭い川）。
旭川は当て字ではないが、市内を流れる忠別川（チュプペッ、日の昇る川）という意味。

景色を堪能した後、僕は川へと下りていく。
川岸のイタドリを折ると餌はすぐに採れる。
エチャナンケップ川。
漢字すらない小さな支流。
速く豊かな流れに竿を振り込む。　藻の茂み辺りで、グンッと強く引き込まれる。
水面から跳ねた魚が、虹色に煌めいた。