貯まる十周年

夫は気づいていない。ダムが崩壊しかけているのを。

結婚一周年目はバラの花束を買ってきてくれた。二周年目は風邪で寝込んでいたっけ。そのままプレゼントもなく十周年の日が明日に迫っている。


妻は気づいていない。ダムが崩壊しかけているのを。

結婚一周年目はバラは刺が痛いから嫌いと言った。二周年目はシャンパンの味が好みじゃないと俺の氷嚢代わりにされた。翌年からは俺のセンスが不満なのか異常に怒っているのでプレゼントどころか声すらかけられない。そのまま十周年の日が明日に迫っている。

結婚記念日当日

私は夫の帰宅を待っていた。もし夫が手ぶらだったら……

ガチャ

夫は手ぶらだ。

「なんで結婚十周年なのに手ぶらなわけ？！」
「なんでって、明日だろ？！」


だから、いつも手ぶらだったのね……

だから、いつも怒った顔だったのか……

二人の誤解は解け、十年分の愛がダムから一気に放流された。