きこえる

「地上の人間が良き者か、その耳を以て調べてこい」
大天使に命じられ、人間の声を聞きに地上に降りてきた天使。
天使は人に紛れ、耳をそばだてる。良き人間には祝福を。悪しき人間には処罰を。そうやって天使として人を導いた。
いつしか天使は地上で神様と呼ばれるようになった。
朝から晩まで天使を賛美する声が聞こえる。それに天使は気分を良くしていた。

天使は大天使に呼び出された。
「そなたを地上に遣わせたのは神として地上を統治させる為ではない。勝手な行動は慎め」
そう注意されるも、天使の耳には入らない。
それどころか「天上に住まう大天使は人間を見限った。皆よ、武器を取れ。今こそ大天使の楔から解き放たれる時だ！」と人間を扇動し始めた。
大天使は溜息を吐くと天使を地獄へと落とした。その声が、その名がもう二度と人間に届かぬよう、地下深くに閉じ込めた。

天使の名はキコエル。地獄耳の語源となった堕天使である。