蝋燭

2
3

女はバスに乗るなり、シュニール織のバッグに、ビニール袋をしまおうとしたが、すぐにバスは揺れて、女の、中途半端にカールした長い髪も揺れた。

つり革につかまると、母親に抱かれている赤ん坊と目が合った。赤ん坊は、瞳に好奇と期待を満たして、女を凝視した。女は小声で呼びかけ、顔面を作り、あやし始めた。赤ん坊は、喉を鳴らして“もっとやれ”と要求した。降りる終点まで、あと4つ停留所があった。

ふと視線を移すと、後ろの席にも赤ん坊がいて、女を見つめていた。女は、この赤ん坊にも、同じようにあやし始め、交互に機嫌をとり続けたが、道路は、いつになく渋滞していた。

赤ん坊たちの要求は続き、母親たちは、可愛がられて当然とばかりに、静観していたが、突然、女は手に持っていたビニール袋を強く握りしめ、泣き崩れた。袋には、精神に作用する薬が入っていた。女は、蝋燭のように、周囲のために身を削る者だった。蝋燭が溶けた。
その他
公開:21/12/22 15:13

kidohe

「蝋燭」が人生初作品、初投稿です。
よろしくお願いします。

普段は、韓国(アジア)ドラマ・映画の字幕監修者として働いています。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容