優先席

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「私が悲鳴を上げたら、この注射を打ってください」
私は目の前のOLにそう伝えた。電車の対面座席。ここは優先席である。近頃の若者は常識がない。
私か?私は健常者だ。しかし、こうした輩を排除するために座っている。
大抵、連中は態度だけは一人前で内面は幼い。覚悟、というものがまるでない。実際、私が大声で悲鳴を上げ始めると注射をすてて逃げていく。この前の学生もそうだった。

もうすぐ駅に着く。仕事の始まりだ。
私は小さく息を吐いて悲鳴を上げ始めた。金切り声は車内に響き渡り、車内の温度が下がる感覚がする。
そろそろか。と前を見やると太腿に違和感を感じた。針が、刺さっている。一度では終わらず、抜いては刺してを何度も繰り返す。私は痛みに耐えかねて、手で太腿を庇ったが、針が手を貫通するだけで終わりはしなかった。手の甲に空いた穴からは生暖かい感触を残して血が流れる。
私はぐったりと席にもたれ掛かった。
ホラー
公開:21/12/23 23:12

太郎犬( 日本 )

読書量も文章力も想像力もまだまだですが、ちょっとずつ投稿していきます。
コメントいただけると嬉しいです。
 

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