父走る(10周年祭り参加作品)

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 この街に住み始めて十年。ひとり立ちして何とかやって来られた街でもある。仲良しの野良猫とさよならしたり、よくしてくれた病院の院長が亡くなったりして悲しいこともあった。でも、相変わらず野良猫は可愛いし、次の院長もよい人物で、これからもこの街で暮らしたいと思った。
 セールで買ってきたシャンパンをポシュッと開けた。それと一緒に投げ売りされていたチーズのセットもテーブルに乗せる。頑張ってきた十年を祝う。ラジオをつけると、クリスマスソングが流れてきた。
 五歳のクリスマスはちょっと気まずい思い出がある。楽しみにしていた大きなチキンは、クリスマスケーキを買い忘れた父に母が怒って、味わうどころではなくなった。父がケーキと何故かトイレットペーパーを買って帰る頃には私はベッドの中。次の日、ちょっとくどいケーキをいらないと言った私に向けられた悲しい父の笑みと、無言で食べる母を愛しく思った。
その他
公開:21/12/23 22:33
たらはかにゃーさん主催 十周年記念 お題「十周年」 田丸先生おめでとうございます

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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