時計と記憶『失くしたもの』

1
2

「あら見回り中? 丁度いいわ、お散歩中に腕時計失くしちゃったみたいなの。でも帰ってきてすぐ外して靴箱の上に置いたような気もするのよね、つい2、3分前の事なんだけど。お庭で犬がひどく吠えだしたから、そっちに気をとられちゃって」

「なら、巡回しながら探します」

そう言い残し、自転車を押して玄関先から離れ生垣の陰に入った俺は、〝装置〟のダイヤルを『マイナス3分』に合わせ、即起動。

到着早々、生垣を飛び越え庭に侵入。ワンワンわめくソイツをよそに家の裏を周る。開けっ放しの玄関から狙いの品を盗るのは雑作なかった。

さっと敷地から出て、今度は『プラス3分』で〝装置〟を起動。無事、来た道ならぬ来た時を戻ってきた。

「すぐそこに落ちてましたよ」と、軒下の婦人に時計を手渡す。〝装置〟はこれくらいみみっちく使うのが丁度いい。デカい事やるとバレる。

「まあ。ありがとう! こら、お巡りさんに吠えないの」
SF
公開:21/12/20 15:16
更新:21/12/29 22:29
時計と記憶 落とし物 泥棒 警察官 タイムマシン タイムトラベル

畑のお肉屋

月の音色リスナー
エブリスタでも同じ名前で、ショートショートよりかはちょっと長めのを書いてます → https://estar.jp/users/474388634

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容