時計と記憶『1月の勇気』

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「全員着席して、不要な物は仕舞って下さい」

用語集を閉じ、使い捨てカイロとともにリュックにしまった。いまヤマを張ったばかりのところが出てくれたらラッキーではある。けれど、なにかしら〝記憶の呼び水〟にでもなってくれたら、それでいい。

机の上を再確認。袋から出したポケットティッシュ、鉛筆削り器、消しゴム。鉛筆5本の黒くとがった芯が透明なキャップごしに見える。それから、写真票と受験票――大丈夫。置くべきものを置いてある。

冊子が配られた。表紙の注意事項にしっかり目を通す。

あと少ししてこの表紙をめくってから先、どうなるかはわからない。でも、いまやれる限りの準備を尽くしたことと、60分間本気で取りかかって、いまの自分の出せるすべてを出し切りたいってことだけは、確実に言える。

ママから借りてきた腕時計を外し、そっと机の上に置く。まもなく針は9時30分を指した。

「それでは始めて下さい」
青春
公開:21/12/21 22:43
更新:21/12/30 15:07
時計と記憶 大学入学共通テスト 受験生

畑のお肉屋

月の音色リスナー
エブリスタでも同じ名前で、ショートショートよりかはちょっと長めのを書いてます → https://estar.jp/users/474388634

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