いまどきゾンビのテーブルマナー

「まずは椅子に座りましょう」
　そこからマナー教室は始まった。
　ギクシャクとした動きで五人の生徒が席に着いた。
　ゾンビが増えた今の世界ではフルコースは難しい。テーブルの上にはメインの肉とカトラリーだけだ。
　それでも、マナーを学びたい生徒がいる。
「基本は相手を不快にさせないことです」
　そう言った途端、一人が手づかみで肉に食らいついた。ただ、不快に思っているのは私だけのようだ。
「周りの人とペースを合わせ。うっ」
　腕に痛みが走った。噛み付いた生徒にグーパンする。
「マナー以前の問題です。他人を噛んではいけません」
　腕がズキズキする。予防薬を飲んでいるから、ゾンビ化はしないはず。だけど、だんだん、ひりつくような飢えを感じる。
「残すのはマナー違反です」
　生徒の皿から肉を奪い取り、噛み付く。
　仕方ない。
　マナー講師は時代や状況に合わせ、新しいマナーを作るものなのだから。