ポインセチアの男

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 ショッピングモールのイベント広場にある天窓に浅い角度で射す冬の陽は、『スノードームを作ろう』会場の子供達が透明半球にトロトロと注ぎ込んでいる水糊に届くことはなく、見守る親たちは、その原始の海にも似た粘度が袖を汚さぬよう、背後から子の袖を捲り上げるのに忙しい。
 閉じた世界。
 わたしは花売場のレジ前に半身で立ち、白い花8赤い花1.3その他0.7の割合で、リレーバトンほどの花束が完成するまでの暇つぶしのつもりでスノードーム会場を眺めていた。
 フードコートよりは高級生食パンがいい? なるほど。
 店員が会心の笑みと共に、わたしにバトンを渡す。私はそれを左手に受け、即座に右手へ持ち替えると、スノードームを横切る最短距離を駆け抜けるべく一歩目を踏み出した。その途端、鉢植えのポインセチアに躓いた。
 トロトロとした赤が9、白が1になった花束を、絶対に届くはずのなかった光が照らしているのが見えた。
その他
公開:21/12/19 08:41
更新:21/12/19 08:42
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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