時計と記憶『帰巣本能』

なんでも鳩時計は、最初に電池が入れられた場所をすみかと決めてしまうらしい。俺もさっき、形見分けで貰ってきたそれに電池を入れたらバサバサ飛んでって、それでネットで調べて初めて知った。

だからまた実家に行ったわけだけど、時計はここには帰ってきてないという。それで途方に暮れて歩いてたら、駅前の飲み屋の前に、キレイなお姉さんたちの人垣が。

中を覗くと、店じゅう飛び回る、あの時計――

『あ！』と出かかったのを抑え、お姉さんの一人に訊いた「何事ですか？」

「前にお得意様から貰ったカッコー時計が、ウチに入ってきちゃってー」

「カッコー？　鳩時計ではなく？」

「お兄さん知らない？　あれ鳩時計って呼ぶの世界でも日本だけで、ホントはあれカッコーなの。けどカッコーったら閑古鳥でしょ。縁起でもないって、そのお爺さんに返したの」

「……知らなかったです」

爺ちゃんがガールズバーに通ってたってことも。