苦すぎるコーヒー

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事件は会計時に起きた。

運河沿いに見つけた「喫茶URASHIMA」という店でアイスコーヒーを頼んだ。一杯600円。少し高いが、豆の酸味と苦味を嫌味なく引き出した味だ。壁の張り紙には「当店にて竜宮城のような夢見心地のひと時を」とある。確かに不思議と居心地は良かった。気づけば窓の外はすっかり闇に包まれ、自分が最後の客になっていた。さて、そろそろ帰らないと。

「お会計、6万円です」と白髪のダンディーな店主が言った。
「え、600円の間違いでしょ」
「何年経ったと思ってるんですか。それ100年前の値段ですよ」
店主は呆れた顔でこっちを見ている。新手のぼったくり店だろうか。
「お客さん、時間を忘れてスマホに夢中になっていたから。最近多いんですよ、現実を忘れちゃう方。ほら、鏡」
そこには顔中しわだらけの自分が映っていた。払えるお金もなく、立ち尽くすしかない。口の中にはコーヒーの苦味だけが残った。
ホラー
公開:21/12/12 18:09
更新:21/12/12 18:11
カフェ スマホ 時間

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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