幸せの音

私のママはシングルマザーって言うらしい。お父さんとは私が小さい頃に離婚して、それからずっと1人で、私を育てているから。
朝から晩まで働いているママは、家に居ないことが多い。ご飯も1人で食べるし、お留守番も1人。
「可哀想に」
小学校の先生や、近所の大人はみんな私を見てそう言う。
けど、私にはその言葉の意味がわからなかった。



ジューーーッ…

ある日曜日、キッチンから何かが焼ける音がして目が覚める。パジャマ姿のまま部屋を飛び出て、キッチンへ向かった。
「ママ！」
「おはよう。まだ寝ててもいいのに」
「ううん、ママの朝ごはん食べる！」
「ふふ、じゃあ先にパジャマ着替えてきなさい」
「はーい！」
日曜日に聞こえる、料理の音。それは、ママと2人で居られる幸せの合図。一緒に居られないことは確かに多いけど、この時間があるだけで、私は幸せなのに。
他の大人は私を見て何で「可哀想」なんて言うのかな。