クレープに包む

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「ママ、クレープ食べようよ」 
 中学生の娘がクレープを見つけ指さした。
「クレープ見ると、顔をしかめるから嫌いなのかと思ってた。何かあるの?」
「何もないわよ」
 甘い物好きだった昔の恋人が、甘いものを食べられなくなったと同窓会で嘆いていたのを思い出す。その時、自分の嫌な部分を見た気がした。
「やっぱり、好きじゃないかも」
 甘くて、可愛いものが私には似合わなかった。彼が去っていったのもこれが理由の一つだと思っていた。
『違うよ。君は僕より格好良すぎたんだ』
 彼はそう笑っていた。
 ぼんやりしていると、クレープを取り上げられた。
「夕飯、少なめにしてね」
「ダイエット? そんな彼氏やめたら?」
 娘が盛大にむせた。
「ママ!」
「冗談よ。可愛いわねえ」
「ママだって、おしゃれしたら可愛いでしょ」
 思わず抱きしめると、頬が甘く香った。
 
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公開:21/12/09 22:56
12月9日 クレープの日

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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