保険

ウチの旅館には長い歴史があってね。どうだい？このいかにも何か事件が起こりそうな雰囲気の旅館は。
人里離れた場所にひっそりと建つウチはこれまで多くの作家さん達に愛されてきたよ。
俗世との関係を断ち、執筆に集中する為。空気や雰囲気を肌で感じ、創作に活かす為。
中には無理矢理担当編集に連れて来れられ、缶詰させられる人もいたね。その人の書いた逃走劇は最高に面白かったよ。
そんな旅館だからこそ、保険には当然加入している。
火災や地震や盗難は当たり前。”名探偵保険”にも加入している。
世の中には『その人が向かう所、必ず事件あり』なんて、厄介な運命の下に生まれる人がいてね。そんな人にこそウチは愛されているんだ。
厄介ではあるがお客様である。無下にも出来ないから名探偵保険に加入している。
海外では襲撃による損害を補償してくれる、”テロリスト保険”なんてものあるらしい。
大きなホテルは皆加入しているそうだ。