幻想機

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これは、見た目が年代物の幻灯機みたいだけれど、「幻想機」と呼ぶんだ。昔、映画館を営んでいた祖父が偶然入手した禁断の品と聞いている。
明治時代に作られたという舶来品で、自分が頭の中で願望した世界をこのガラスに念写し、そのガラスの画像を幻灯機と同じ要領で幻想機のランプとレンズを使って投影するんだ。
このガラスは、南アフリカの喜望峰で採取された「希望石」という鉱石を砕いた砂で作っていて、自分が望む世界を実現できるとされている。
ただ、「砂上の楼閣」というとおり、狂気に満ちた異常な欲望は実現しないどころか、自らの身を亡ぼすことになりかねない。
一説によると、二十世紀前半に帝国主義、ファシズムが蔓延り、ヒトラーやムッソリーニといった独裁者を生み出しのも、この幻想機がかかわっていたとされている。
だから、夢幻はそう容易く実現できないので、ささやかな願いを叶えたいときにだけ我が一族では幻想機を使う。
その他
公開:21/12/05 08:01
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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