桃太郎の憂鬱

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郊外の築50年超の実家にアリが大発生した。原因が分からず、困っていた母に代わって害虫駆除サービスを依頼した。母一人では心細いだろうと当日は私も実家に出向いて業者を待っていると、桃太郎が犬、猿、キジを連れてやってきた。

「アリ退治にやってまいりました」と桃太郎は威勢よく挨拶した。高齢の母はしばらく口をボカンと開けたまま玄関で立ち尽くしていたが、ハッと我に返って「桃太郎さんが害虫駆除をなさるなんて時代も変わりましたね」と言った。

桃太郎は「近頃は鬼もすっかり出なくなりましたからね。私のスキルを活かせる仕事と言えば今や害虫退治くらいなものです。それにスタッフを食わせなければなりませんし」と話し、そばに控えた犬、猿、キジを見やった。

その姿は部下を思いやる優しさに満ちていたが、いっぱしの若き経営者としての苦労や憂いも感じられた。かつて全国に名を轟かせた英雄の暮らしも決して楽ではないようだ。
ファンタジー
公開:21/12/08 07:15
更新:21/12/08 07:17
昔話 パロディ 経営

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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