ありがとうの種

「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」

祖母は、何かある度すぐに「ありがとう」と言っていた。どんな小さなことでも、その全てに対して。

「なんでばあちゃんは、いつも『ありがとう』っていうの」

幼い私がそう言うと、祖母は笑った。

「ありがとうの種を撒いてるんだよ」
「ありがとうのたね？」
「そう。種を撒くとね、ぽっとみんなに花が咲くのさ。わたしゃそれを見るのが好きなんだよ。私も得する、言われた方も嬉しい、どっちもはっぴーさね」

幼い頃の私には、その意味がよくわからなかった。



でも、今ならよく分かる。

「ママ、おさらだしたよー！」
「あら、ありがとう」

そう言うと、ぽっと赤く色付く小さなほっぺ。そして、えへへと照れくさそうな笑顔が咲いた。

(ああ、ばあちゃんが言ってたのはこういうことか)

確かにこれは、ありがとうの種を撒きたくなるな。