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源頼朝が日本史上初の本格的な人工滝である鎌倉瀑布を創設したことを知る人は驚くほど少ない。この巨大な滝の建設には、各地で捕縛された平家の残党や奥州藤原氏の旧所領から駆り出された百姓およそ数万人が役夫として動員され、十余年の工期が費やされた。

鎌倉時代に成立した歴史書である吾妻鏡によると、この滝は東西北の三方を山で囲まれ、南に海を臨む鎌倉という天然の要塞都市を取り囲むように掘削され、とりわけ大雨の日には鶴岡八幡宮や大倉の地にあった御所は「流水に浮かぶ神殿の如し」だったという。その晩年に滝の完成を見届けた頼朝も「鎌倉の守りをさらに盤石にするものなり」と目を細めたと言われている。

だが、歴史に名を刻んだ瀑布は、新田義貞の鎌倉攻めで徹底的に破壊され尽くしてしまう。今では鎌倉七口に代表される切り通しの壁面に往時の面影をかすかに残すのみとなり、その存在はすっかり幻に包まれている。
ミステリー・推理
公開:21/12/04 17:37
更新:21/12/04 17:41
歴史 鎌倉時代 ミステリー

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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