生物は皆、寂しいと死んでしまう

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機械の魚がぴちゃんと水面を跳ねた。
私は「初めて見ました」と彼に言う。
「見世物ではないからね」
「魚が寂しくないように、でしょう?」
「うん。人間だって、一人では寂しくて死んでしまう。魚たちが気持ち良く生きられるように、機械の魚を大量に放っている。見た目や質感は完全に本物の魚と同じだよ」
「詳しいんですね」
「まあ、ね」
「あれ?」
私は先ほどまで泳いでいた魚の数が減っていることに気がついた。
「そろそろ充電の時間だ」
「充電?」
「海底にある充電スタンドまで行って、エネルギーを蓄えるんだ」
「なんか電気自動車みたい」
「まさに電気自動車だ」
そう言うと、彼は突然早足で歩き出した。
まただ、と私は思う。
「ねぇ!突然どこに行くの?」
彼の背中に言葉を投げつける。
おそらくたった二人のこの世界で、私は彼の秘密を知るべきなのだろうか。
そう思いながらも、私は自然と彼を追いかけている。
公開:21/11/30 21:50

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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