故人の挨拶

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未来の告別式。
大往生した故人の葬式に悲壮感は少ない。
運命を受け入れた中で迎えた遺族の表情は穏やかで
参列した者たちは皆口を揃えて『理想の死に方ね』と故人を讃え偲んだ。
式は粛々と進み火葬場に移動する。
「故人と最期のお別れです」と皆この時は涙し別れを惜しんだ。

骨上げを済まし骨壷に納めると係の案内で『仏声部屋』へと案内された。
故人の遺影が祭壇に飾られ対面する形で、皆椅子に腰を下ろした。
「それでは、故人様より最期の挨拶を頂きたいと思います」係に促され喪主は両脇にスピーカーを備えた機械のドッグに骨壷を装填した。
電源を入れると骨伝導スピーカーから故人の声。
「…あ、もういいかな?皆さん今日は本当にありがとう。実感はまだ沸かないけど仏も悪くないです」生前と同じ遺骨の声に皆感慨深い。
「田中さん、どっちが長生きするかの賭け私の負けだわ。息子が代りに一杯奢るから」
部屋は笑いに包まれた。
SF
公開:21/12/01 09:37

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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