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冷え切った体に味噌汁の温かさが身に染みる。
ほぅ…と息を吐けば、真っ白く出たそれが空へと昇って行く。昔は「魂が飛んでいく」なんて騒いだものだ。
しかしそれは案外間違いではない。今、この味噌汁を飲んだ私は極楽気分だ。目を閉じれば天国へ行ってしまうかもしれない。
味噌汁は亡くなった母の味にそっくりだった。だから余計に天国を近くに感じたのだろう。
その隣の鍋は豚汁。こっちはちょっとしょっぱいな。これは私が恋人に作った味だ。あいつはこれが大好きだった。
ほぅ…と息を吐き、再び真っ白なそれが空へと昇って行く。
冷たい体が徐々に温かさを取り戻してくる。次はメインの大鍋に手を伸ばす。
父と肉を奪い合ったすき焼きを腹いっぱい食べては白い息を限界まで吐き出す。
ありがとう。もう十分に満足したよ。
現世の未練を断ち切る為の鍋料理。最高の最後の晩餐だったよ。
ふぅ…と息を吐くと真っ白な魂が空へと昇って行った。
公開:21/11/29 20:25

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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