いつかシーソーは傾いて

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「人間いつかは死ぬ」
それが口癖だったトマス爺さんが死んだ。
『いつか』なんて嫌な事を後回しする為の言い訳だと思ってた。
爺さんがいつも休憩していた公園。
シーソーの片方にちょこんと座る爺さんの姿が見えた。
「ひどいじゃないか。嘘つき」と向かいあわせに座る。
煙草の煙と共に「言葉はいいぞ」と吐き出した。
「言葉?」と爺さんを見上げる。
「嬉しいとか悲しいとか今ある心の形を言葉に出してみろ。必ず何かの言葉に出来るハズだ」
「…」
「どんな状況でも言い表す事が出来る。すなわち先人が一度は経験済みの出来事だって事だ」
「所詮己の人生手垢の付いている出来事ばかりなんだ。言い表せる事なんて大層ない。永遠に続く苦痛もない。人間いつかは…」
「言葉になんか出来ないよ!」
ずっと斜めのシーソーから立ち上がる。何かが嗚咽となり溢れ出す。
「言葉になんか…」

ほら、言葉にできたじゃねえかと聞こえた気がした。
その他
公開:21/11/25 11:13

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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