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その夜、少女の住む山に雪がしんしんと降った。
「んっ、ちょっと待てよ」
私は小説を書く筆を止めた。
「果たしてこの表現は正しいのだろうか」
私は雪国に長い間、住んでいるがしんしんと雪が鳴っている音を聞いた事が無い。そもそもこの場面で降っている雪は牡丹雪なのか、それとも粉雪だろうか。
もし、牡丹雪だったら雪国の寒い閉ざされた空間を印象付ける事が出来る。だが、もし粉雪だった場合、吹けば飛んでしまう軽いイメージになってしまうではないか。ストーリ上、軽くなってもらっては困る。とある少女が友人、家族にいじめられ、騙された結果、最後には雪山に辿り着いたと言うストーリにしたい。こんなどっちとも取れる曖昧な表現では駄目だ。別の表現を考えてみよう。
雪がドスンドスンと降った。これでは駄目だ。少女が死んでしまう。
雪が粛々と降った。うむ、静かに事象が続いている様に聞こえる。
でも、分かってくれるかな、読者は。
公開:21/11/23 20:00

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