彼女の「ありがとう」

4
3

私は彼女の為に治療をしてきたのだろうか。
彼女は子宮頸がんの手術後の再発を繰り返していた。
「もう、先生にお任せします。」
いつもと同じ返事だ。
治療はイタチごっこだ。
別の部位に再発を繰り返すという連続だ。
それでも、彼女は治療を続けた。
週末はご主人、長男、長女が見舞いに来てくれる温かい家族だった。
彼女はいつもニコニコしていた。

2か月後に容体が急変した。
心肺蘇生を開始して間もなく、彼女の口から
「先生、もういいよ。ありがとう・・・。」
彼女がそっと、目を閉じると大粒の涙がこぼれた。
刹那、微笑んでいるように見えた。
目頭が熱くなった私は心臓マッサージをやめられなかった。
ご主人から「先生、もう結構です。」
その言葉に我に返った。
心電図を見ると、心拍は無かった。

彼女は非力な私に何を「ありがとう」だったんだろう。
答えが分からないまま、その言葉は今も私の身体に刺さっている。
ファンタジー
公開:21/11/21 15:17

ひまわり広場( 神奈川県川崎市 )

産婦人科専門医/指導医
@sanadakuma
tama-himawari3w.com
身体は日々の食事で出来ている。
妊婦さんにも食事の重要性について情報提供しています。
ダイエット中の方々にも食事・睡眠・運動の重要性について情報発信しています。
自身が「愛着障害」であることに気付き、もう一人の自分と上手に共生しています。
自分が、自分の『安全基地』になることが生きていくための拠り所なのかもしれない。
科学的な視点からの表現も交えて、ショートショートストーリーを作っています。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容