日曜の朝

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私と妻が移住したのは新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦大字争いのない世界。ここでは人の顔は巡りもの。弥彦山の頂上では全人類の顔写真が粒状の帯となり幾重にも山を囲んで回っている。それはポンデリングみたいな雲のルーレット。倒立した神職の右足がぷるぷると次の顔を指し示すことで巡り顔は決定される。
妻の顔が習近平になったその日、私と妻は壮絶な喧嘩をした。食材や調味料が飛び交う台所で互いに自分のことを棚に上げまくった。妻といってもその顔は習近平だから今ひとつ集中できぬまま、争いのない世界なんて地名だけじゃないか、そう思ったら涙がこぼれた。
妻は家を出ていった。冷凍庫にはふたりでためた唾液が製氷皿に残っている。もう捨ててしまおうか。そんな気持ちになる。家の前には妻の噴石が無数に転がっていて、私は隣の家に暮らすドゥテルテ大統領と互いの家の噴石で玉入れに興じた。
人間はどうして怒るのかなあ。そんなことを話しながら。
公開:21/11/21 12:21

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