救世主ゾンビ

十数年前の“突然変異体発見事件”を皮切りに、この世界はあっという間にゾンビだらけになった。財力のあるいくつかの都市以外はほぼ廃墟状態で、生き残っている人間達のほとんどは怯えながら暮らしていた。

ある日、隠れ続ける生活に疲れきった一人の男が言った。
「ゾンビは蘇りし者。その心臓には不老不死の秘密がある！ゾンビは我々の救世主なのだ！」
勿論それは根拠のないデマだったが、ある問題に頭を悩ませていた一部の人間にとっては格好の材料だった。彼等は男に続いて真っ先に声をあげる。
「ゾンビは救世主だ！」
「ゾンビ！ゾンビ！」
そのうち世界中がゾンビコールに包まれた。最早それが真実かどうかはたいした問題ではなく、不老不死に憧れる大多数がゾンビの捕獲に乗り出した。

「深刻だった食糧難もこれで少しは解決するだろう。共食いによる人類滅亡を防ぐという点でいえば、ゾンビは間違いなく我々の救世主だな」