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金物屋のウチに鍋の修理が舞い込んできた。
嬉しいね。古い物を大切に扱ってくれるお客さん。俺も頑張るとしよう。
鍋を調べ始めて1時間。俺は途方に暮れていた。
鍋に問題は見当たらない。なのに火の通りが悪い。ムラも多い。
この鍋の調理用途ははっきり言って死んでいる。どう修理したものか…
これ以上考えても無駄だと今日は諦めた。鍋をコンロの上に置いたまま寝床へと戻る。

その夜。喉の渇きに目を覚ました俺は台所を覗き見ていた。
鍋が浮いている…いや、よく見ると半透明のおばさんが鼻歌交じりに振っているではないか。鍋の上を踊る食材の姿も見て取れる。

その出来事を依頼人に告げると依頼人はくすっと笑った。
「それ、去年亡くなった祖母です。そっか…きっとこの鍋は祖母と一緒に天国に行ったんですね。貴方は鍋の走馬灯を見たんだと思います」
鍋を持ち帰る依頼人の背を見て、俺は手に馴染まなかった父の槌を思い出していた。
公開:21/11/22 20:45

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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