聞こえる

「ちょっと待ってくれ、カスミ。お願いだ。僕の話を聞いてくれ」
「嫌よ。もうあなたの話は聞き飽きたわ」
「もう一度だけで良い、考え直してくれ。君ならきっと分かってくれるはずだ」
「何を考え直すって言うのよ。私にはあなたが何を言っているのか意味が分からないわ」
「だから何度も説明したじゃないか。「ボジョレーヌーボー・シルブプレ」。これは日本語で「ボジョレーヌーボーを下さい」という意味だって。なんで君はこんな簡単な文章も分かってくれないんだ」
「私にとっては簡単じゃないわ。あなたが喋っている言葉もその意味も分からないもの」
「そんな事は僕も分かっている。それを理解してもらうために僕は君の家庭教師をしているんじゃないか」
「本当にそれだけかしら？私、知っているのよ。あなたと私の母さんが夜な夜な蜜月な関係だってこと」
「どこでその事を聞いた？」
「そんな事、気付かないのは私の父さんくらいよ」