聞こえる

電話の向かうからあなたの声がする。
数か月前にあなたが昇進したことは同期の友人から聞いていた。
何だか前より声に自信に満ち溢れている。
たしか、今は海外出張中だったはず。きっと仕事が上手く行っているのね。
「ねえ、仕事の方はどう？」
「まあ、順調かな。君の方はどう？」
「まあまあかな、ウフフ」

それから数ヶ月後、あなたの様子が変わった。
私が何度電話をかけても返って来るのは「ちょっと、今、忙しいから。また掛け直す」。結局、あなたから電話は掛かって来なかった。

その後、私は何度も何度もあなたの電話に掛け続けた。
でも、あなたの声は聞けず仕舞い。その代わりに電話の向こうから聞こえてくるのは私の知らない女性の声。
「現在、この電話は使われておりません。もう一度お確かめの上、再度お掛け下さいませ」
「ちょっと、あんた誰よ。彼とどういう関係なの。答えなさいよ。私の声、聞こえているんでしょ」