聞こえる

聞こえる。私のお腹の中から新しい生命の鼓動が。
トクン、トクン
あなたが生きている音がする。
「ねえ、聞こえる？私の愛しいあなた。あなたの名前はさやか。大原さやか。私と父さんで悩みに悩んで決めた名前よ。あなたはきっと私に似て美人になるでしょうね。モテすぎても私に文句を言わないでよ。それから、あなたはきっと父さんに似て心優しい子になると思うわ。誰かが困っていたら手を差し伸べてあげられる優しい子。あのね。実は、あなたに伝えて置かなければならない事があるの。それはね。さっきお医者様からこんなことを言われたの。「母体と赤ん坊、どちらを生かすか決めて下さい」って。私は即答で「あなたを優先して下さい」って懇願したわ。ねえ、聞こえる。あなたは何も悪くない。だから自分自身を攻めたりしないで。ねえ、愛おしいあなた。あなたが生まれた時あなたを抱きしめてあげられないかもしれない。でも、あなたを愛しているわ」