聞こえる

聞こえる。数年ぶりに会った同郷の女性の声が。
酔って夢うたたな私の頭の中に響く。
「ねえ、聞いている？」
「ああ、聞いているよ」
「本当に聞いている？」
「ああ、聞いているさ」
「・・・そう、分かったわ。それじゃ、さっき言った通り置いていくから」
「ああ、分かった」（酒代の事かな？）
そして彼女は出て行った。

しばらくして目を覚ますと私は居酒屋に一人置いてけぼりだった。
私は財布は持っていなかった。どうしよう。
そんなことを考えていると頭の中に誰かの声が聞こえた。
「このまま食い逃げしちゃいなよ。店主はこっちを見ていないぜ」
「おいおい、どこの誰だか知らないがいけないよ。それは」
「その通りよ。犯罪はいけません。店主には事情を話せばきっと分かってくれるわ」
また、新たな声が聞こえた。
二人は私の事を無視し、お互いに自分こそが正しいと口論を始めた。
こうして私はまた置いてけぼりになった。