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「もしもし、私の声、聞こえますか?」
ラジカセから聞こえて来たのは懐かしい母の声だった。
気付けば、私の目には大粒の涙がこぼれていた。

それは母の遺品の中から見つかった。
一本のカセットテープ。
長時間の放置によりカセットテープはワカメ状態。
だが、かろうじて聞けたのがさっきのフレーズだった。

私は生前、母からこのフレーズを何度も聞かされた。
「ねえねえ、聞いてよ。父さんったらね」
「ねえ、ちゃんと聞いてる?もし、も~し?」
母は私が県外の大学へ行った後もいつもの様に電話をかけ愚痴やのろけを一方的に喋った。
その度に私は「ハイハイ、聞いているよ。もう分かったから。それじゃ、今忙しいから切るね」と邪険に扱った。

もう少し、ちゃんと聞いてあげればよかったな。
今となっては遅いがそんな事を思う。
だから、私は人の話をちゃんと聞いて相談に乗ってあげられる仕事に就いた。
それが弁護士だった。
公開:21/11/16 04:27

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