文系夫と娘と理系妻

私たち家族は、都会から自然豊かなこの土地に引っ越してきた。
私は、娘の情操教育ために。
妻は、電卓をたたいた結果。

夕陽を背に感じながら家路を急いでいた。
「パパ、背中熱いね。夕陽は熱いね。早起きして朝陽をみた時、朝陽は熱くなかった。どうして？」
この質問に理系の妻なら
「同じよ。太陽の表面の温度は約6000℃」と夢のかけらもない返答をするだろう。
しかし、情操教育に重きをおく文系の私は違う。
「夕陽は、その日にあった嫌なことや悲しかったことをまとめて燃やしてくれているんだ。そして夜中に明日も頑張って働けるようにリセットしてから朝陽になるんだ」
どうだ、夢のある答えだろう。

「よかった」
と娘はにっこりした。
「パパなら太陽は夕陽と朝陽、ふたつある。みたいなこと言うかと思ったけど、さすがにそこまでは……ね」

えっ、手遅れ？　引っ越しするのが遅かったのか。