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 俺は殺された。頭蓋を砕かれ凶器と一緒に湖に捨てられた。その割に意識がある。身体感覚がやけに希薄で、だだっ広く感じる。流れ出した脳髄が湖と混ざり合い、俺自身が湖になってしまったようだ。
 湖には女神がいた。なのに女神は俺の死体より凶器の斧に興味津々だ。湖の底で素振りしたり、金銀で同じのを作ろうとしてる。女神ってみんなこうなのか?
 湖の女神の癖に湖のことをぜんぜん分かってない。湖の底に抗議文を書く。風と波で呼びかける。ようやく俺の存在を認知し、メッセージを読み取った女神の表情は、だけどにわかに曇りはじめる。
 そんなの、最初に言わなきゃ分からなくないですか?
 それ以来下らない喧嘩ばかりしている。不満があるなら出て行けと思うのだが、女神に言わせれば後から投げ込まれた俺に指図される謂れはないとのことだ。こんな関係になるなんて思ってなかった。それとも、いつかこうならざるを得なかったんだろうか?
その他
公開:22/03/07 18:00

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