虚構と現実

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ある人物が歩き始めた瞬間、多くの顔がそちらを向く。もし、視線に殺傷能力があったなら、既に蜂の巣のようになるような、ピリリとした緊張感の中、その人物は、強張る口を何とか開く。

「あぁ…私が殺してしまったのに。何故、彼女が捕まらなくてはならないのか…。」

膝から崩れ落ちたその人物は、両手で泣き顔を覆い隠す。

「おぉ、神よ…どうか彼女をお助けください…私に裁きを…。」

そのまま本格的に号泣し始めると、ぱぁんと勢いよく机が叩かれる。

「カァット! はいはい、お疲れちゃん。今日はこれでお終いね。結果は、後日。じゃ、次の方~。」

白髪の人物にそう言われると、その人物の流していた涙はピタと止まる。

「ありがとうございました。」

軽く一礼して、その場を後にした人物は、マスクで隠された口元を歪め、喉で嗤う。

「神さんは、どうやって俺の罪を裁くんだろうな? あいつに被せた殺しの罪をよ。」
その他
公開:22/02/28 10:32
更新:22/02/28 10:35

揚羽( 日本 )

物書きの端くれになりたい一般人E

空想の世界で遊ぶことが好き

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