ベルト

人は一生のうちにベルトを何本使うのか。男は思った。自分は何本か。最初は小学校高学年の時。バンドって呼んでた。一本か二本だろう。中学校高校では制服で黒の細いベルト。六年間で一本だ。大学生になると服もベルトも自分で買った。二、三本か。初めてのスーツには革製のいいベルト。社会人になってからはビジネススーツ用に五本くらい。誰かの海外土産でもらったイタリア製の高級ベルトは嬉しかった。結局、ベルトは今まで合計十本ほどか。そしてこのベルト。通勤途中にイタリアベルトのバックルが壊れて駅で買った安物だ。ずいぶんくたびれて穴が広がってシワも目立つ。これを使い始めた頃だった。会社の金に手をつけてしまった。金額は膨らんでもう隠せない。

もう三時間も男はベルトを前に思い詰めている。決心した。やはり止めよう。このベルトの最後の役目が首を吊ることだなんて馬鹿馬鹿しい。男はホテルの部屋を出た。ゴミ箱にベルトを捨てて。