夜猫を呼ぶ声

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この世界には、月のような瞳を持った夜色の猫がいるらしい。
そいつは日暮れ頃から真夜中にかけて街を周り、夜が均等に行き渡っているのかを調べては巣穴へと戻っていく。

「夜猫さん、夜猫さん。この街にもどうか夜をお恵みください」

そう両手を組んで言霊を唱えるのは、ユルの主だ。
先はなく、消費されるために生まれた生贄は己を削って言葉を紡ぐ。この街から夜が消えからひと月が過ぎた。月の光を使う儀式も、夜を寄り合わせて作る名産品の糸も失われた。残ったのは、願いをろくに叶えることのできない生贄だけ。

「お願い。一度でいい、たった一回でいいから死ぬ前に誰かの役に立ちたい……」

己の名前を呼んでくれればどんな願いをなんだって叶えてあげるのに。今日も彼女はユルの名前を呼ばない。

どうして、と問いかけた声も届かず。
ユルは今日も目の見えない少女の足元に現れた黒い夜猫を崩していく。
ファンタジー
公開:22/02/23 01:52
夜猫

ふみ はじめ

最近とても困っていることはハンバーガーを上手に食べることができない事です。

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