渓谷にて

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渓谷の流れは浅く両岸をつなぐように古ぼけたロープがかかって、だらりと垂れる。水量は少なく垂れたロープを濡らすことなくしょぼしょぼと流れる。川岸の石に腰を下ろして眺める。何を待つでもない。ロープが中空に垂れて揺れもしない。遠くで雲が傾きながら過ぎた。
夕方になる。ロープが急にピクリと動く。いつのまにか弾力を帯びてぴんぴんと跳ねる。よく跳ねる。まんじりともせずみていたがいつまでも跳ねているので、飽きてしまい小屋に向かった。
その晩、泊まった小屋でみた夢。
暗い川の岸にかかるロープに、私は気がついたらなっていた。夜空の下でロープはつまり私は、跳ねるのをやめてだらりと垂れる。夕方に跳ねたせいで伸びたのか一部が流れに触れた。川面に触れて水を吸った私はぶくぶくとふくらんでぐっしょりと水に浸かる。そしてどんよりと太る。川に浸かって伸びきり、夜が明ける頃に岸から離れて流されていった。
その他
公開:22/02/18 17:09

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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