風運ぶ協奏曲。

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 耳を撫でる風が心地よい。
 開けた窓から風に混じり聞こえてくる音、今日はいいオーケストラだ。
 風が運ぶ協奏曲に耳を任せ、心を落ち着かせながら珈琲をゆったり啜る。
 人生においてこんな極上の時間はない。紫煙を燻らせ、一息吐くといつもの喧騒が遠ざかる気がした。
 現実とは常に残酷でありながら、現実との狭間にあるこの時だけは美しい。
 眼前に広がる美しい緑、どこまでも広がる大地、澄み切って青々としている空。
 しかしやがて、風が運ぶ協奏曲は聞こえなくなってしまった。
 やれやれ、今日のオーケストラは閉演か、美しい時間とはあっという間に過ぎるもの。
 と、ドアをコンコンコンと小刻みにノックされたので、入れ、と部屋に通す。
 「ご報告いたします!本日予定していた政治犯の処刑は滞りなく終了致しました!失礼します!」
 いい演奏だったよ、そう一人呟いて書類に目を落とす。
 さて、次の演奏者は誰かな。
その他
公開:22/02/19 13:47
更新:22/02/19 15:20

パンダ一太郎( 首都圏 )

気が向いたらその時に思うがまま書き綴ります。

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