セロリ

6
4

雨が降りはじめたのは夜になってから。一人きりの雑然とした部屋で何もすることがない。つめたいフローリングの床に古雑誌、チラシ、布切れ、空き缶、片方だけのサンダルが散らばっている。錆びたスチール棚に一枚の紙切れが残されていた。しわくちゃな紙を広げると蘭子の筆跡。乱れているが、あきらかに彼女の筆跡だ。乱れすぎて文章は読み取れないのは残念。
天井に虫が一匹這っている。点滅する灯りのなかで虫は一直線に這う。真っ直ぐにものを言う蘭子の声を憶いだした。携帯のアドレスに彼女の電話番号がまだ残っている。電話してみた。
着信音ばかりで誰も出ない。携帯を耳にあてながら視線は床をただよう。セロリの葉が落ちている。セロリの葉をじっとみていると、葉脈に何か見えてくる。錯視というやつか。浮き出てきたのは蘭子。不思議だが違和感はない。葉脈のなかで蘭子が笑っている。
その他
公開:22/02/15 16:35

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容