西部侵攻

　とある大国が西部に版図拡大を目論んでいるとの噂がたった。
「きっと来月には軍を集結させ、我が国を攻めてくるにちがいない」
　西部では皆が口々に不安を漏らした。しかし大国は二月たっても攻めてくる気配がなかった。
「おそらく十日後に奴らはやってくるだろう。ああ恐ろしい」
　しかし大国に動きはまるで見られなかった。
「奴らは来月の頭に攻めてくるはずだ。学徒動員も視野にいれねば」
　だが、大国の軍は待てど暮らせど現れなかった。
「あとは向こうの宰相次第だ。我々はいつでも攻撃の準備はできている」
　西部の民はそう息巻いたが、一年たっても大国が動く気配は全く見られなかった。

　ある日、別の大国が南部の島への侵攻を目論んでいるとの情報が西部に入った。
「きっと来月には島を攻めるだろう」
　西部は期待に胸を膨らませたが、大国の軍が海を埋め尽くすことはついぞなかった。